123号

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やさしいマンガ

 『GIANT KILLING』には、好きな場面が、それはもう数えきれない程たくさんあります。

※ 以下、ジャイキリ特に6巻について、思いきりネタばれしています。



 コミックス6巻に収録された第55回。
 怪我から復帰して、8か月ぶりにピッチに立ったFW夏木の感慨。サポーターの声援を受けての独白。
「ありがとうサポーター……変な体勢でシュート打って 変な着地して8ヵ月も棒に振った俺を待っててくれて……」
 現実のサッカーにおいて、怪我あけで久しぶりに試合に出た選手が本当に何を考えているか、観客席からは分からない。でも、もし、この夏木のようなことを少しでも思ってくれるのなら、8か月が1年だろうと2年だろうと、私たちは待てる。そう思わせてくれる。マンガと現実がリンクして、「モーニング」の惹句じゃないですが、読むと元気になる。
 良いシーンだなあ、と思います(この後、後藤GMに「俺を切らないでいてくれて」、お医者さんや家族に「こんな俺を支えてくれて」、達海に「俺にチャンスくれて」と独白が続いていくのも良い)。

 誤解を恐れずに言えば、ジャイキリはファンタジー漫画。リアルなサッカー漫画と評価されることが多いけれど、実はあんまりリアルじゃない。ひたすらに読者の見たい世界を提供してくれるマンガです。
 開幕5連敗とか…マンガであっても胃が痛い展開もありますが、あれも実は、ファンタジーの下支えなんじゃないかと勝手に推測。
 おそらく、嘘を嘘だと悟らせないために、クラブの在り方、試合の進み方に、それはもう過剰な程のリアリティを注入する。

 たとえば、上述の夏木復活の場面。
 途中交代で夏木が出場し、彼が感慨にふけっているところでETUはカウンターからピンチに陥る。そして失点。それはもう、いきなり。ああ、確かに、いつかどこかでこんな展開を目にした記憶があります。
 これはファンタジーじゃない、現実なんだ、とページの向こうからマンガの神様が囁いてきます。マンガじゃないマンガじゃない本当のことさ、と。
 上でファンタジーだ嘘だと書きたてたけれど、正確には、ジャイキリで描かれる嘘は、多分100%の嘘確定の嘘ではありません。黒か白かで言えば、限りなくグレー。
 こんなチームが、こんな監督が、こんな選手が、こんなゲームがありうるか。注入されたリアリティが、天秤を黒に傾かせて、「ある」と読者に思わせる。
 8か月ぶりのピッチ、勇んで出場したら、味方はいきなりの失点。けれど、夏木は挫けることなく、
「そうだった そうだったじゃねえか」「俺が8ヵ月求めてたのは そういう世界じゃねえか」
と前を向く。その不敵な表情を、「リアルだ」と思わせる。そう思わせるためのリアリティ。

 翻る旗、弾幕、ゲーフラ、観客の入り、チャント、サポーターの表情。
 大江戸通運、サークルドーナツ、ローリング・エレクトロニクス、ジェットビール。
 相手のユニに星。立ち上がりは悪かったくせに、しっかり修正してきた。選手同士がよく声かけ合ってる。
 0-0、カウンター、失点。
 ドリさん―杉江・黒田―村越・椿―王子。サイドを走る清川石浜丹さん赤崎。
 ピッチ脇でアップするサブの選手、スタンドから観ている怪我人の世良、堺OUT夏木IN。
 いかにもどこかにありそうなスタジアムの光景。
 その全てが、過剰なデティールの詰め方が、グレーを黒に、嘘を本当にする。
 読めば読むほど、手間のかかったマンガだと思います。面倒なことを面倒がらずにやってくれている。
 相手にしているのは、簡単に騙されてくれるような客だけじゃない。全力で騙さないと騙されてくれない客にも、思いきり良い夢を見せてやりたい。ページの向こうから、作り手の矜持の声が聞こえてくるようです。
 このマンガにふさわしい読者になりたいと思いながら、もう一度6巻を読めば、夏木の大復活弾。
「娘寝ちゃってるけど 最高だ……」
 ああもう大好き。

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