123号

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『グリムのような物語 トゥルーデおばさん』

 諸星大二郎先生の『グリムのような物語 トゥルーデおばさん』を買いました。

 昨年は、「生命の木」まさかの映画化、『諸怪志異(四)燕見鬼』と『稗田のモノ語り 魔障岳』の新刊ラッシュ、文庫化された妖怪ハンターシリーズへの「死人帰り」掲載、と諸星好きには、嬉しくも非常に慌しい1年でした。(文庫も含めた)これらの新刊で、あと10年は生きていけますと思っていたところに、翌年2月、つまり今月ですが、早くも次の新刊ですよ。こんなに読者を嬉しがらせて、いったいどうするつもりですか諸星先生。どうもされませんね。とにもかくにも恐悦です。

 さて、本題の『トゥルーデおばさん』です。概要は、帯のとおり。《「グリム童話」を諸星流にアレンジした魅惑のブラックメルヘン作品集!!「赤ずきん」「いばら姫」「ラプンツェル」「ブレーメンの楽隊」ほか計8編を収録!!》です。
 8編の中には、元ネタが何なのか、がクライマックスで明かされるような話も入っています。そのような話の元ネタについては、帯中の元ネタ作品列挙からは、きちんと外されているのが(偶然かもしれませんが)、嬉しいです。

 私、常々、諸星先生の特に近年のマンガは、どこまで本気なのか分からない、本気だとしても脱力するような笑いの要素が、残酷なシーンも異様なシチュエーションも、「ほのぼの」とした雰囲気にしてしまうところが良いなあと思っていました。ほのぼのとした、懐かしい雰囲気。それを助けているのが、元々ある描写の朴訥さであることは、言うまでもありません。
 白眉は、『トゥルーデおばさん』と同じく「眠れぬ夜の奇妙な話コミックス」の『栞と紙魚子 何かが街にやって来る』。
 表題作の「何かが街にやってくる」では、正体不明の「あれ」たちが、町内の動物や妖怪を脅かします。「あれ」は、たとえばペットボトルの蓋と甲虫の合体したような姿。ゆえに、奴らはお前らの仲間ではないのか、と付喪神が疑われます。疑いを向けられ、付喪神は、《断じて違う》ともちろん反論。
 しかし、その反論が、あいつらは、《エイズとかサーズとかと同じだよ》。このシーンに出てくるカワウソの川さんも、ちょっと京極堂シリーズの伊佐間を思わせる雰囲気でユーモラス。
 「栞と紙魚子」に話が逸れましたが、『トゥルーデおばさん』でも、この笑いは健在です。「夏の庭と冬の庭」で、奥さんに喉に刺さった魚の骨をとってもらっているときの、けもの。「赤ずきん」でおばあさんの家のドアをノックしての《オレオレ…じゃない あたしよ 赤ずきんよ》。特に、「赤ずきん」は、先ほども出た『何かが街にやって来る』の「魔術」に似た雰囲気のホラーなのに、きちんと「オレオレ詐欺」の小ネタを挟むあたり、諸星先生大好きです。

 『トゥルーデおばさん』の中では、巻頭の「Gの日記」、表題作の「トゥルーデおばさん」、それから「鉄のハインリヒ または蛙の王様」の3編が特に良いなあ、と思います。これら3作の共通点をあげるとすれば、どの作品も現実とリンクせず、物語の中だけで世界が完結していること、そして、ヒロインがいずれも善悪の彼岸に行ってしまっていること、でしょうか。

 以下、ネタばれありなので、追記で。



 3編のヒロイン3人の中で、最も好きなヒロインは、「Gの日記」のヒロイン。ラストで明かされる彼女の名前はグレーテルです。グレーテルの閉じ込められている奇妙な屋敷には、当然、兄のヘンゼルもいます。しかし、この話でのヘンゼルは、全編ほぼジャグリングをしているだけで、台詞もまったくありません。15頁で初めて顔の出てくるヘンゼルは、大変な美少年で(諸星先生の描かれる男の子は、どうしてこうむやみに美しいのか)、目の保養にはなるものの、それだけです。
 「グリム童話」の「ヘンゼルとグレーテル」でも、坂田靖子先生の『BEAST TALES』「ハンスルとグレトル」でも、頭脳労働は兄の担当でした。妹は、兄の指示により、枯れ枝を拾って兄に渡し、鍋のお湯が沸騰しません、と魔女に言います。
 けれども、「Gの日記」では、グレーテルは、終始自分だけの判断にしたがって行動します。《さあ この家を出るのよ!》と、崩壊する屋敷の長い回廊を、兄の手を引いて駆け抜けます。27頁の決然とした表情は、掛け値なしにきれいでした。屋敷を出て、やがてわが家が見えてきたところでの、モノローグ、もし、継母が生きていたとしても、《あたしは呪いをかけてやるつもりです》に繋がるきれいさだと思います。
 同じ27頁では、どうやらヘンゼルも理性を取り戻しているようでした。正気に戻ったその顔は、妖怪ハンターシリーズの天木薫君に似ています。そうすると、グレーテルは美加ちゃんか。
 グレーテルは、おばあさんに呪いをかけるのに、欠片の罪悪感もないのと、魔女退治の際の思い切りの良さがすばらしいと思いました。

 最後に、3編ほど簡単な感想を。

「鉄のハインリヒ または蛙の王様」
 前述の『BEAST TALES』では、「カエルの王子」と題されていたこの話(ラストの、王子の台詞が好きです)、今回は、どんなラブロマンスかしら、と期待して読んだら、お姫様が王様の従者を手に入れるために王様と結婚しようとした挙句に、王様を殺す、という話でした。水中で一瞬だけ王様と交わったがゆえに、従者はめでたく姫のものとなりました。タイトルにある、「鉄のハインリヒ」とは、この従者の名前で、表紙にも姿を見せている、『ナウシカ』の巨神兵のような、『ラピュタ』のロボットのような、巨大なアレです。鉄のハインリヒが、お姫様を肩に乗せて城へと向かうラストシーンは、確かにラブロマンスと言えなくもありません。

「ブレーメンの楽隊」
 盗賊に襲われる騎士と従者が、ドンキ・ホーテとサンチョ・パンサ。子豚に粉挽きと、「3匹のこぶた」や「長ぐつをはいた猫」を想起させるキーワードも登場します。楽しい雰囲気の話なのに、楽しく感じないのは、ラストに悪意があって後味が悪いせいでしょうか。

「ラプンツェル」
 一番、諸星先生のマンガっぽい話。何度か読み返すうちに好きになりそうです。何はともあれ、最後にラプンツェルが自ら(!)髪を切って、オカッパになったのがすばらしい!

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