それで、迷った末に、『諸怪志異』か『栞と紙魚子』あたりから入るのがいいんじゃないかな、というような返信をしました。
しましたんですが……今になって少し後悔。
もちろん、上に書いた2つのシリーズは、2つとも、とてもおもしろい。
しかし、アレだ。
何と言うかこう、諸星先生の作品の中でも、割と人を選ばない、割と万人受けする、要は消去法的に上の2つを選んでしまったのではないか、と。
そんなの諸星先生にも燕見鬼にも栞にも紙魚子にもボリスにも失礼です。
何より、万人向けが、その質問をしてきた彼女向けとも限らない。
今は昔、『BSマンガ夜話』の諸星先生回で、どなただったか忘れましたが、やはり同じような質問に、どれから読んでも同じだから手に入りやすいものから読めばいい、というような答えをしていました。
確かに。
絵柄や、他の人のものと区別できるという意味での作風の完成されっぷりという点では、確かに、どれから読んでも同じです。
同じなんですが、どこのドアから入っても、待っているのは同じおもしろさという点では、本当に、上の返答に頷首頷首です。
でも何となく、それでも、どこのドアから入るかで諸星先生の印象って変わってくると思うんですよ。
私は、諸星先生の漫画では、一番最初に『マッドメン』から入りました。
結果的にベストチョイスだったな!と、後になって思いました。
『マッドメン』の次に読んだのが、たぶん『暗黒神話』と『孔子暗黒伝』で、『妖怪ハンター』シリーズに手を伸ばす頃には、既に、この先生の描かれるものなら何でも受け入れます、己に理解できなければ理解できるまで死ぬほど読み返します、と完全に腹を見せた状態。
以前、(確か)酒見賢一先生が、諸星先生を指して、読者の上に君臨する作家、と書いていましたが、まさにそんな感じです。
たとえば、私は『遠い国から』のシリーズが大好きですが、もし一番最初に触れた諸星先生の漫画があれだったら、次も次もと他の本もどんどん読んだかというと、己ながら疑問です。
あれは何と言うか……カオカオ様の出オチ感が強すぎる。
しかし、何度も何度も読んで、カオカオ様の出オチ感もきれいに消えて、どこか他所の星のごく自然な風景として受け入れられるようになった頃、いわゆる旅行エッセイのように『遠い国から』のシリーズを、しみじみ楽しむことができました。
だから、つまり、諸星先生の漫画については、基本はどれから読んでもいいけれど、ジャンルは、SFとか活劇とかホラーとかギャグとか日本とか中国とかパプアニューギニアとかアフリカとかデストピアとか文化人類学とか民俗学とか多岐に渡っているので、なるべく自分にとって入りやすそうなジャンルのドアから入るのがいいんじゃないかと思います。
個人的には、ホラーから入るのはおすすめしない(後味がとても悪いので)。
あと、『海神記』から入るのもおすすめしない(未完なので)。